11月のある日、1年生の担任のA先生が、研修のため一日不在となりました。
子ども達にとっては、入学以来初めてのことです。先生は、子ども達が困ることのないように心を砕き、しっかり準備を整えて出かけました。
私が教室に入っていくと、黒板いっぱいにA先生から子ども達へのメッセージが書かれていました。「今日一日、A先生がいなくても、みんなでがんばれるかな?」と尋ねると、「はい、がんばれます!」と頼もしい返事が返ってきました。これなら大丈夫、と思い、次の授業のため、黒板を消そうとしました。すると、「"先生"は消さないでください!」との声が上がりました。メッセージには、A先生の似顔絵が添えられていたのですが、その絵は消さないで、と言っているのです。
(担任の先生がいなくて心細いけれど、1年生でも自分たちでちゃんとできるよ)(だけど先生にも見守っていてほしい)・・・そんな気持ちが、痛いほど伝わってきました。「わかりました。消さないでおきますね。」そこだけ残して黒板を消すと、皆、安心したように、にっこり笑いました。
そうして始まった図工の授業は、粘土で積み木のような形をたくさん作り、それを積み重ねて作品を作る「ねんどでつみき」です。
初めは、思うように「積み木」を形作ることができず、苦心する児童が多く見られました。その上、「もっとたくさん作ってください。」と言われ、「え~まだ?」「大変だ~」と音を上げそうになっている子もいました。それでも1時間目が終わるころには、皆しっかりと最初の課題をやり遂げました。
2時間目、「それじゃあ、できた積み木を積んでみましょう!」皆、待ってました!とばかりに、作った"積み木"を積み上げ、次々と作品を完成させました。終わる頃には、どの子もニコニコ顔で、「楽しかった!」「いろんな物が作れてよかった!」と満足気。後片付けにも進んで取りかかりました。自分の粘土の片付けが早く終わった子は、手伝えることを探し、みんなで素早くきれいにしようという態度がいつも以上に感じられ、あっという間に片付けは終了。学習も後の片付けも「はなまる」でした。
給食も無事終わり、この日最後の授業は生活科の「おうちのひとのしごとしらべ」です。授業が終わりに近づいた頃のこと。Bさんの席に、友だちが二人集まっていました。学習用のファイルを落としてしまったBさん。中に綴じてあったプリントが全部はずれてしまいました。そしてそれに気づいた二人がプリントを拾い、綴じるのを手伝っているのでした。大声を出したり騒いだりすることもなく、静かにかいがいしく手伝う様子を見て、私は思わず、
「A先生、・・・先生がいなくても、みんなで協力して、無事に一日過ごせましたよ。ここまでに、よく育ちましたね。」心の中でそう呼びかけていました。黒板では、A先生の似顔絵が、優しくみんなを見守っていました。
こうして、日々いろいろな経験を積み重ねながら、子ども達は少しずつ「自立」へと向かっていくのでしょう。また一つ、新たな試練を乗り越えた子ども達。今日もA先生と一緒に、楽しく元気一杯に過ごしています。
西中 直子