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才教ダイアリー

国語の授業より③ ~中学校3年生・前編~

投稿日:2021.09.27

国語科担当・6学年担当



 小・中学校課程の最終学年である9年生(中学3年生)では、中国清朝~中華人民共和国の時代を革命の中で戦い続け、国と民衆を動かしてきた、魯迅(ろじん)作の中国文学、「故郷」の単元に取り組んでいます。これも、全ての出版社の教科書にずっと掲載されている作品です。「やまなし」とは別ベクトルで非常に難しい小説で、恐らくこれを読んで「おもしろい!」と感じられる人は、ほとんどいないのではないでしょうか。


 当時の時代背景や本文そのものの学習をじっくりと行った上で、この作品について『批評文』を書く活動を行いました。ただ批判すれば良いというわけではなく、今よく言われている『批判的思考(クリティカル・シンキング)』を意識しつつも、作品のことを十分に理解した上で、その価値や特性、現代社会との繋がりを語る活動です。さすが最高学年ともなると、9年間培ってきた文章力、思考力が如何なく発揮され、早い生徒は15分ほどで素晴らしい批評文を書き上げることができ、驚きました。長くなりますが、3名分をピックアップして、全文を掲載します。



「故郷」の批評 その1


 この作品の価値は、この作品を読んだ人々に行動を起こさせる、ということにある。当時の荒れ果てた中国を立て直すために、民衆を動かすほどの力を持った作品だと言える。


 この物語はとても情景描写が細かい。現実の「鉛色の空」や回想の「紺碧の空」との対比など、詳しく述べることで、読者自身の昔の情景をも思い出させ、理想とする世界との対比もしやすくしている。また、登場人物の行動等も細かい。特にヤンおばさんは、物を盗んでいった時の走り方などの様子も細かく描かれている。ヤンおばさんの行動は良くないように思われるが、それが当たり前の光景となっていた当時の読者層に、皮肉に滑稽にその姿を知らせている。


 魯迅は、これを小説として書くことで、民衆に客観的な視点を持ってもらい、自分達の生活を見直すことを薦めたと思われる。知識が無くても誰でも読めるように工夫して書いている。途中に出てくる「チャー(穴熊)」等の長い長い描写は、私には物語の重要な鍵とは思えないが、より身近な現実味を持たせたかったのではないだろうか。


 現在も、問題がそこらじゅうに転がっている。中国だけではなく日本、世界には、解決しなければならない紛争、格差、環境問題などがある。しかし、私たちは目を背けているように感じる。この世界を魯迅が見たら、どう思うか? 我々に現実を見て、自分たちで解決することを促すだろう。物語にもあるように、自分たちで道を作ることが必要であると思う。希望を持って、自分たちで変えていかなくてはならない。



「故郷」の批評 その2


 この作品の主な登場人物、「私」とルントウとヤンおばさんには、大きな壁が生まれていた。「私」が幼い頃は、故郷はとても美しく、晴々として未来に希望を持てる描写となっていた。しかし、大人になってからの描写では、悪化する社会の状況や、お金等への欲望にまみれて、広い視野が失われていっている。私は、主人公の行動も、ルントウやヤンおばさんとの関係に「壁」ができるきっかけとなったのではないかと感じた。「私」の行動は、ヤンおばさんを「コンパス」と心の中で呼び、わざと自分とヤンおばさんの間に距離を作ったり、「でくのぼう」のようになってしまったルントウを見て残念な反応をしたりしている。美しい過去にすがりついていたとも言える。「私」が「壁」を超える努力をしたり、もっと頻繁に故郷と関わりを持ったりするべきだったのではないだろうか。


 この作品のキーワードである「希望」は、手の届きにくいところにあるが、希望に頼ったり、持ったりすることで、皆が幸せに向かえる大切なものだと感じた。そして何より、そうして皆が一緒の方に向かい、今を変えようと行動をすることが重要だと私は思った。今、世界ではあらゆる場所で、小さな誤解や偏見から生まれた争いが起きている。私は、皆でもっと視野を広げ、団結し、世界を変えようと努力することが大切だと思う。



①小学校6年生・前編


②小学校6年生・後編


③中学校3年生・前編


④中学校3年生・後編