
投稿日:2025.07.25
本校が取り組むSTEAM教育の中にある"A"はArtのAだ。なぜ理数系に重点を置く教育手法にArt(芸術)が含まれるのか。米国生まれのSTEAM教育の前身STEM教育は「課題」を効率よく「解決」するため、理数系の能力を高めようとするものだった。しかし、実践の中で様々な問題が見えてきた。そこで、多様で複雑な現代の課題を、より豊かで人間的な解決に導ける人材を育てようとArtが加えられたと私は理解している。
遠回りのようだが実は最も近道になるような、無駄に見えるけれど皆がハッピーになれるような、そんな解決方法を見出す一助となる「発想の芽」を培うこと。その種をまくことが本校の図工・美術科に託された使命だと考える。具体的な実践のひとつとして、5年生以上の図工・美術の授業では、3回に一度、導入部で「STEAMの種」というコーナーを設け、子どもたちに「目からうろこ」の体験を提供している。
以下、これまでに子どもたちにまいた「STEAMの種」の中からいくつかを紹介しよう。
◆「世界地図にもいろいろ」日本が中心にある世界地図が普通だと思ってはいけない。イギリスが中心にある地図が世界では一般的。オーストラリアには南北逆さの地図もある。
◆「縄文時代の冷蔵庫」美術室にある素焼きの壺。中の水が普通のコップの水より冷たいのは、毛細管現象によるもの。先祖たちは、縄文時代からいつも冷たい水を飲んでいたのかも。
◆「風を食べて動く生き物」オランダの芸術家テオ・ヤンセンは、ホームセンターで売られているプラスチックの棒を使い、風力で生き物のように動く不思議なオブジェを作っている。
◆「物を遠くに飛ばすには」弓矢の矢、ライフル銃の内側の「らせん」など、物を遠くに正確に飛ばすには、飛ばす物を回転させればよい。ヒトの体にもそのような仕組みあり。
◆「数字に色が見える人」一つの情報で複数の感覚が同時に働いてしまう、近年注目される「共感覚」。子どもたちに聞くと「教科」に色がついて見えるという人が多数。
◆「鳥の聞きなし」ニワトリの鳴き声は日本ではコケコッコー、英語圏ではcock-a-doodle-doo。聞く人により聞こえ方が変わる。他者と自分の「感じ方の違い」を知る良い例。
◆「ひっつきむしが商品に」身近にある面ファスナー。元はひっつきむし(ある種の植物の種)のとげから着想を得たアイデア商品。近年、オナモミは松本周辺であまり見られない。
◆「ゲシュタルト崩壊」新美南吉(ごんぎつねの作者)は、それをテーマに作品化している。誰にでもある認知機能の一時的混乱。漢字練習中に起きやすいが、心配しなくてもよい。
これまで提供してきたことが、図工・美術の表現や他教科の学習に生かされることがあればうれしいが、すぐに役立つことはないし、おそらく長い人生で何の役にも立たないだろう。しかし、ここで知った新しい「視点」「発想」「気付き」などが、いつか自分の直面する困難や課題を乗り越えるヒントになる時が来るかもしれない。それこそが『STEAMの種』の本望だ。
<子どもたちの感想>
●何も知らない人がテオ・ヤンセンのストランドビーストを見たらきっと驚くと思う。(5年「風を食べて動く生き物」)
●自分のあたりまえは世界のあたりまえでないことがあるとわかった。今日は社会の勉強にもなった。(6年「世界地図にもいろいろ」)
●「毛細管現象」「気化熱」の仕組みを知って興味がわいた。家に帰って実験してみようと思う。(7年「縄文時代の冷蔵庫」)
●ひっつきむしが服につく仕組みが分かった。身近なところに自然から学んだテクノロジーが他にもないか探してみたい。(8年「ひっつきむしが商品に」)
●私は漢字テストでこれが起こって絶望を感じたことがあります。大事なテストでこれが起きないように気をつけたいです。(9年「ゲシュタルト崩壊」)
5~9年 図工・美術科担当