投稿日:2020.09.01
5年生の理科、2学期最初の単元は「花から実へ」。花の中にはおしべとめしべがあり、おしべの花粉がめしべに付いて受粉、そして実がなる…ということを学びます。
授業は、花を分解して『がく・花弁(花びら)・おしべ・めしべに分け、ルーペで観察』することから始まります。手順を説明し、各グループに3種類の花と、ハサミ、カッター、ピンセット、ルーペを配りました。誰も何も言いませんが、テンションの高まりが教室内に伝わってきます。
生徒たちは眉間にしわを寄せ、ハサミを入れたりもくもくと手でちぎったりしながら、花を丁寧に分解し、机の上にピンセットで並べていきます。分解された花は黒い机上で更に映え、さながら標本のようです。
制服が汚れる原因となった、ヘチマのおしべから飛んだ花粉。「なんだか気持ち悪い…」と多くの生徒に評された、べっとり花粉まみれのムクゲの花芯(おしべとめしべが一体)。これらは、すぐあとの「受粉」の学びに活きてきます。
他にも、「先生、アサガオの花びらのちぎり方が分かりません…」と私を呼ぶ声。ラッパのような花弁は、どこかに切れ込みを入れないと分解できません。おや、この経験は「合弁花と離弁花の分類(中学校課程)」に活かすことができそうです。
「よし、コノ作業はコノ単元で役立つな…。」
「よしよし、アノ作業はアノ単元で役立つな…。」
私は、生徒たちが今後の学びに結びつく何気ない作業を一生懸命行っているのをほくほくした思いで眺めながら、自分の手立てに酔っていました…。
やがて、生徒たちが『花を分解しルーペで覗いてみる』というミッションを終え、やや手持ち無沙汰となった頃、一人の生徒が声を上げました。
「これを更に分解していいですか?」
私が「いいですよ」と言うと、「待ってました!」
…と聞こえた訳ではないのですが、そのような雰囲気で、生徒達は引き続き花を切り刻み始めました。理科室のテンションは、2段階ほどアップしたようです。
「うわぁ、ムクゲのつぼみから血みたいな真っ赤な汁が垂れてきた!」
「ほら、ヘチマのおしべってカリフラワーそっくり!食べられるんじゃない?」
「ねえ、アサガオの花びらに絵が描けるよ!」と、ピンセットの先で傷をつけて、棒人間を描く生徒も現れました。みんな、思い思いに楽しんでいます。
先ほどまでの「美しい花の標本」はどこへやら、花や茎をまるで“薬味”のようにみじん切りにするような作業がどんな学びに関連づくのか、私にはもはや思いつきようもありません。原形をとどめなくなった花を見ながら、私は、みじん切りと学びを関連付けるのを止めました。やや狼狽しながら生徒達を眺める私をよそに、生徒たちの顔は至極イキイキしています。
しかし私は、生徒が今後の授業でおしべやめしべ、受粉といったなどに触れたとき、「花を刻んだあの時間は楽しかったなぁ」と印象に残る授業であることも大事なことだ、と、いそいそ後片付けに精を出しました。
生徒たちの楽しい顔こそが学びの原点! そんな思いで、今日も私は教壇に立っています。
5年生理科担当